2023年4月5日、JELFも賛同した「原発差止訴訟の国側代理人経験者を原発訴訟の裁判長に異動させた人事に抗議する申入書」が、最高裁と法務省に提出されました。
弁護士有志217人やJELFも含む弁護士団体22団体による賛同があり、多くの弁護団、弁護士の方の賛同がありました。
提出された申入文の本文を以下に掲載します。
賛同団体なども記した提出版は、ページ下のPDFからご確認ください。
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原発差止訴訟の国側代理人経験者を原発訴訟の裁判長に異動させた人事に抗議する申入書
2023 年4 月 5 日
最高裁判所長官 戸倉 三郎 殿
法務大臣 齋藤 健 殿
(申入れを行う者) 行政訴訟、国家賠償訴訟に取り組む弁護団
弁護士団体
弁護士有志一同
申入れの趣旨
1 被告国代理人として原発差止請求訴訟に関与した経験のある裁判官を、2022 年9月 16 日付で、原発差止請求訴訟係属部の部総括に転任させた人事に抗議します。
2 行政訴訟と国家賠償訴訟分野における、裁判官と検察官(訟務検事)との人事交流について、廃止を求めます。
申入れの理由
最高裁判所事務総局によって、被告国代理人として原発差止請求訴訟に関与した経験のある裁判官を、2022 年 9 月16 日付で、東京高等裁判所の原発差止請求訴訟係属部の部総括に転任させた人事が行われていました(以下「本件人事」といいます。)。事態に気付いた原告側弁護団が裁判所に対して回避勧告と忌避申立ての予告をしたところ、2023 年1 月20 日、事件が別の裁判部に配点替えされました。裁判所が、公式に認めたわけではありませんが、事実上、「裁判の公平を妨げるべき事情」という忌避事由の存在を認めたものと思われます。
同様の事例として、2016 年 3 月31 日、金沢地裁に係属した生活保護基準引き下げ違憲訴訟の担当裁判官が、過去にさいたま地裁で同訴訟の国側筆頭代理人だったことから、原告側による忌避申立てが認められています。
これらの事態の背景に、判検交流があります。
裁判官と検察官の間の人事交流、いわゆる判検交流について、従来、司法権の独立・裁判所の公正の観点から問題が指摘され、刑事分野における刑事事件を担当する裁判官と検察官の判検交流はすでに廃止されています。しかし、国を被告とする行政訴訟と国家賠償訴訟の分野では現在も続いています。2022 年 9 月 1 日には、前日まで東京地方裁判所行政訴訟専門部総括裁判官だった人物を法務省訟務局長に就任させる人事が行われ、私たちはこの人事を厳しく批判し、判検交流の廃止を求める申し入れをしました。
本件人事は、原告らから見れば、「被告企業の元訴訟代理人が、原告の知らないうちにその裁判の裁判長になっていた」ようなものです。本件や前述の金沢地裁の事例が示すことは、従来からの判検交流によって、国を被告とする裁判で公平を妨げる事情のある裁判官が多数存在しており、本件は偶発的でも特殊でもなく判検交流が内包する弊害の具体化だということです。
また、判検交流を経験した裁判官の人事によっては、司法行政上の人事権が個別の裁判に影響を及ぼすことを禁じる裁判所法81条に反する事態が生じかねないことも、本件は示唆しています。
判検交流について、政府から「裁判の公正・中立性が害される弊害はない」「国民の期待と信頼に応え得る多様で豊かな知識、経験等を備えた法曹を育成する意義がある」などと説明がされています。しかし、本件人事も前記金沢地裁の事例においても、現実に、裁判の公平を妨げるべき事情が生じています。裁判官が訟務検事として訴訟代理人となって特に知識と経験を深めた事案について、裁判官に戻ったときの忌避事由になるのですから、裁判官と国に関わる訴訟事務を担当する検察官との人事交流が根本的に不公正な活動であることが明らかです。
私たちは、行政訴訟、国を相手とする訴訟にかかわる弁護団、弁護士団体、弁護士として、本件忌避事由案件に関与した最高裁判所事務総局に対して抗議するとともに、
司法権の独立、裁判所の公正、裁判官の独立の確保のため、今後は、行政訴訟と国賠訴訟分野における裁判官と検察官(訟務検事)との人事交流、すなわち、裁判官を検事(訟務検事)に出向させ、一定の期間、国等の訟務事務を担当させた上で、裁判所に帰して裁判官として行政訴訟及び国家賠償訴訟を担当させるような人事交流については、明確に廃止することを、最高裁判所と法務省に、重ねて求めます。
以 上