2022年11月2日、一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)は、ユネスコの諮問機関であるIUCNに対し、奄美大島・嘉徳浜の護岸計画に関し、世界遺産バッファーゾーン内の嘉徳川について、河川構造物を建設しないことを約束したにもかかわらず護岸工事を進めていることから重大な検討を求める求める要望書を提出しました。
以下、JELFが提出した声明の日本語版を掲載します。
IUCN本部に送付された英語版・日本語版は、このページの下に、PDFファイルで掲載しています。
____
2022年11月2日
Dr. Tim Badman
Director, World Heritage Programme, IUCN
Dr. Peter Shadie,
Senior Adviser, World Heritage, IUCN
Dr. Ulrika Åberg
World Heritage Monitoring Officer/Field Evaluator, IUCN
Dr. Wendy Strahm
Environmental Consultant, IUCN
日本環境法律家連盟(JELF)
〒453-0015
愛知県名古屋市中村区椿町15-19
TEL:052-459-1753
Email:jelf@green-justice.com
代表 弁護士 池田直樹
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」世界遺産要請事項について
JELFは日本全国450名の弁護士で構成される環境保護団体である。JELFは奄美大島嘉徳海岸における護岸建設に対して、自然破壊をするものであるから中止するよう求めている。また、我々のメンバーは嘉徳海岸での護岸建設に反対する嘉徳集落住民をはじめとした鹿児島県民などを代理して鹿児島県を相手に訴訟を行っている。
ユネスコ世界遺産委員会は世界遺産の完全性を実現するために日本国政府に対して4項目の要請事項をまとめた。これに対し、現在日本政府は報告書をまとめて、ユネスコ世界遺産委員会に提出しようとしている。しかし、日本政府の報告書は世界遺産バッファーゾーンである奄美大島嘉徳海岸について深刻な問題が起きていることが隠蔽されている。そこで、私たちはこの重大な問題についてユネスコ世界遺産委員会に報告するものである。
奄美大島嘉徳海岸は嘉徳川の河口に広がるポケットビーチである。嘉徳川源流には世界遺産に登録された森林が広がっているため、日本政府は嘉徳川流域及び嘉徳海岸を世界遺産バッファーゾーンに指定した。世界遺産登録に先立って発表されたIUCN報告書 でも、嘉徳川及び嘉徳海岸の保護の重要性が指摘されている。日本政府は嘉徳川には将来にわたり河川構造物を建設しないことを約束した 。
しかし、嘉徳川河口にはコンクリート護岸の建設が進められようとしている。日本政府はこの護岸について、「政府は、海岸堤防(の建設予定地)が、河川に悪影響を与えないだけの十分な距離があると述べている」 が、これは嘘である。嘉徳川は河口付近で季節によって流れを変え、嘉徳海岸の北側からも、南側からも真水を海に注ぎ込んでいる。季節によって護岸建設区域付近も川の流れが存在する。嘉徳海岸と嘉徳川を区別することはできない。そもそも、嘉徳海岸は小さな海岸であって、「海岸堤防(の建設予定地)が、河川に悪影響を与えないだけの十分な距離」など存在し得ない。
日本政府は世界遺産のバッファーゾーンに嘉徳海岸を指定したが、バッファーゾーンに指定される前と後とでは海岸の自然保全政策は何も変わっていない。自然海岸の持っている防災能力については何一つ考慮しないまま護岸建設を推し進めている。世界自然遺産のポリシーからすれば、自然海岸の防災能力を最大限引き出す方策が検討されるべきであるし、我々も提案をしているが、鹿児島県及び日本政府は科学的調査を一切行わず、自然を維持するための何の努力もしていない。彼らは護岸の前に砂を盛り、アダンを植えるとしている。しかし、護岸は海側にあまりにも出過ぎており、台風、嵐によって盛られた砂はすぐに失われてしまう。彼らはそれを承知しており、流されればまた砂を盛り直すと述べている。彼らの計画している保護策は気休めにしかならない。
さらに悪いことに、護岸工事を行うための進入路を嘉徳川に沿って作ろうとしていることだ。嘉徳川河口にはリュウキュウアユ、スジエビといった絶滅危惧種が存在する。工事は長期に綿あり、進入路という人工物は嘉徳川の生態系に悪影響を及ぼすことは明らかである。ユネスコ世界遺産委員会はこのような工事を決しては許してはならない。世界自然遺産の完全性を追求するのであれば、このような無謀な進入路工事を行ってはならない。
IUCN報告書では、日本政府は「地元地域(local communities)との合意」のもと護岸工事が行われると報告している。地元とは嘉徳集落を言うが、嘉徳集落の半数近くが護岸はないほうがよいと考えている。特に若い世代は反対している。世界遺産からの学びを現世代だけでなく未来世代にも引き継ぐというのは世界自然遺産の最も重要な考えであるが、嘉徳海岸の護岸工事はこの点でも世界遺産の考えとは相容れない。
護岸は台風による波から背後地を守る目的で建設される。しかし、背後地に海側にある墓地は200年以上の墓石があり、この地が歴史的に侵食されたことがないことを示している。この海岸の砂の量は安定しており、長期的にみて海岸線の後退がないことは鹿児島県も含め、誰もが認めている。護岸によって守られる土地があるとすれば、数メートルの範囲である。それも鹿児島県はどの範囲に害が及ぶかについて科学的なシミュレーションは行われていない。
嘉徳護岸に対する政策は日本政府の世界自然遺産に対する基本的なポリシーを試すものである。ユネスコ世界遺産委員会は嘉徳海岸の護岸工事を小さな問題と片付けていないでもらいたい。
以 上