2022年06月23日

2022年6月10日 JELFはIUCNに、日本政府及び鹿児島県に嘉徳浜の護岸計画の見直しを勧告することを求める書簡を提出しました。

 2022年6月10日、一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)は、ユネスコの諮問機関であるIUCNに対し、奄美大島・嘉徳浜の護岸計画について、日本政府および鹿児島県に計画の見直しを勧告するよう求める要望書を提出しました。

 以下、JELFが提出した声明の日本語版を掲載します。
 IUCN本部に送付された英語版日本語版は、このページの下に、PDFファイルで掲載しています。
____

2022 年5月26日
IUCN 日本委員会 殿
〒104-0033 東京都中央区新川 1-16-10 ミトヨビル2F
日本自然保護協会内

03-3553-4109
日本ユネスコ国内委員会事務局 殿
〒100-8959 東京都千代田区霞が関 3-2-2 文部科学省内
03-5253-4111

JELF(Japan Environment Lawyer for Future)
■ 所在:〒453-0015
愛知県名古屋市中村区椿町 15 番 19 号
学校法人秋田学園名駅ビル 2 階(本部)
Tel:052-459-1753
Mail:jelf@green-justice.com
代表:弁護士 池 田 直 樹
(担当) 弁護士 西 岡 治 紀

 

 2021 年 7 月、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」世界自然遺産登録に際し、鹿児島県大島郡瀬戸内町の嘉徳川流域及び嘉徳海岸は、推薦区域保護のための緩衝地帯(バッファーゾーン)に指定されました。私たちは、このように嘉徳川及び嘉徳海岸が世界遺産に準じるものとして,日本政府によりこれまでと異なった保全政策が行われるものと大いに期待しました。さらに、最近では嘉徳川に新たな新種も発見されており、研究者の注目を集めています。しかしながら、日本政府や鹿児島県は何も変わっていません。日本政府は世界自然遺産という登録を大切にしていますが,自然遺産そのものはどうでもよいかのようです。嘉徳海岸においてコンクリート護岸の建設が強硬的に進められようとしています。この護岸は嘉徳川河口そのものに建設されるものです。バッファーゾーンの趣旨に反し、ひいては嘉徳川や嘉徳浜に生息する多様な貴重種を侵害し、より一層悪影響を及ぼすものであります。嘉徳川河口に護岸建設の進入路を設けようとしています。このような状況から、日本生態学会や日本ベントス学会、日本ベントス学会といった専門学会からも、護岸工事の即時中止を求める要請がなされています。私達も、このコンクリート護岸の建設に反対すると共に、ユネスコに対し、日本政府及び鹿児島県に護岸計画の見直しを勧告することを求めます。

1. 嘉徳川及び嘉徳海岸には多様な生態系が生息すること
⑴ 嘉徳海岸には、絶滅が危惧されているアカウミガメとアオウミガメが産卵に上陸する場所であり、さらには絶滅危惧 IA 類のオサガメの産卵も記録されている非常に貴重な場所であります。また、レッドリスト記載種が 33種報告されており、鹿児島県のレッドデータブック掲載種 8 種が確認されているほか、特に貝類は 432 種存在する等、非常に多様な生態系を有しています。
 嘉徳海岸に流れる嘉徳川では、レッドリストの絶滅危惧種 IA 類であるリュウキュウアユが生息するほか、河口域にはヨコヤアナジャコとリュウキュウコメツキガニが生息する砂干潟及び砂泥底があり、河床転石帯には、ヒメヒライソモドキやケフサヒライソモドキ、カワスナガニなどといった貴重な生態系が生息しています。
⑵ さらに、今年の 2 月頃、新たに嘉徳川のみに生息するスジエビが確認されました。これまで国内に生息するスジエビは、生活史及び形態の異なった2つのタイプ(A と B)の存在が知られてきました。今回、嘉徳川で採取したスジエビ 27 個体全てが、これまでに確認されているスジエビとは異なる塩基配列であること、また生息の確認が嘉徳川のみであること、遺伝的多様性が低いことから、他のスジエビと比べて絶滅リスクが高いことが示唆されています。
⑶ このように、多様な生態系を有する嘉徳川及び嘉徳海岸を緩衝地帯として指定されたことは評価される一方、下記に述べる通り、嘉徳海岸での護岸建設工事により生態系の連続性が遮断され、重大な影響を与えることになります。

2. 誤った情報を通知していること
⑴  世界自然遺産登録に際し、日本政府は、「嘉徳海岸に計画されている護岸が、河川に悪影響を与えないだけの十分な距離を担保する」と伝えております。そして、このことを前提として、IUCN 世界遺産評価書でも、嘉徳護岸について、「また、政府は奄美大島において最後の自然の水流(free-flowingriver)を残した嘉徳川は、将来にわたり河川構造物の建設の対象としないことに合意した。政府は、海岸堤防(の建設予定地)が、河川に悪影響を与えないだけの十分な距離を担保することを特筆した。」と記載してあります。
 しかし,嘉徳川は時期によって河口を変動させ,時には岸に沿って砂浜を横切って北上し,嘉徳浜北部に流入し、この変動によって嘉徳海岸全体の砂の変動に寄与しています。従って,嘉徳浜は嘉徳川の一部となっています。
政府のいう護岸が「河川に悪影響を与えないだけの十分な距離」にあるというのはあり得ません。実際の距離はわずか数メートル程度であります。
 嘉徳海岸と嘉徳川の位置関係について、日本政府は誤ったメッセージを送っているのであります。

⑵ 自然に配慮した工事であるとの誤った報告がされていること
ア 鹿児島県は,計画している護岸工事について,建設したコンクリート護岸の前面に上から砂をかぶせてコンクリート護岸は外部から見えないようにすること,砂をかぶせた上でアダンを植栽することから,自然に配慮した工事であるとの説明をしています。
イ  しかし,このような鹿児島県の説明は誤りであることが海岸工学の専門機関による調査・解析により明らかになっています。実際は,コンクリート護岸は,低気圧や台風による暴浪時には,波が当たる砂浜の変動帯に建設することが計画されています。
 そのため,県が計画するコンクリート護岸を作っても護岸の前の砂が流されてなくなってしまいます。護岸がない今の状態であれば,台風などの際も砂が動いて形を変えて海岸過程の中で砂が戻ります。しかし,計画されている護岸ができると,波はそこで跳ね返り砂も動かないので護岸がむき出しになっていってしまいます。護岸の上に砂を盛っても流されてしまうのでアダンも育つことなく流されます。
したがって,鹿児島県の説明は誤りです。むき出しになった状態の護岸はさらなる侵食を招くことになるので,計画されている護岸は逆に侵
食の原因を生み出すことになります。
ウ 鹿児島県が現在計画している護岸は,実態を見れば,自然に配慮した工事とは言えるものではなく,世界で採用されている自然堤防や Eco-DRR などと呼ばれる自然地形を生かした防災とは到底言えないものです。

3. 嘉徳川を通過するように搬入用道路が計画されていること。
⑴ 現在、嘉徳海岸の護岸建設において、工事用道路設置工事として、数十メートルにも及ぶ距離での工事が進められる予定です。そして、その道路の設置箇所が、「金久川の横から進入するルートとします。」「川を横断します。」ということが明らかになっています。
 この川を横断する場所は、実際に金久川と嘉徳川を合流する場所であり、嘉徳川に生息するスジエビや他の生態系に直接的に道路設置工事による悪影響が生じることは明白であります。
 それにも拘わらず、護岸建設を進める鹿児島県は、半ば強硬に工事着工を進めようとしております。
⑵ このように、現に嘉徳川流域において、嘉徳川やその生態系等に影響を与える工事が差し迫っている状況です。

4. 嘉徳海岸での砂丘が回復しており、本件護岸が有害であること
 2021年9月11日、施工者により、嘉徳海岸において、起工測量が実施されました。この起工測量結果によれば、護岸の当初設計時と比較して、最大で1メートルほど地盤高が上がり、砂(地盤面)が回復していることが明らかとなりました。砂浜は、波を減衰させ、高潮や津波から防災する役割があります。
 他方で、本件護岸は、嘉徳川への悪影響があるばかりか、護岸によってどの程度の防災機能があるのか十分に検討されていないばかりか、むしろ本件護岸による悪影響が大きいという指摘もなされています。
 このような中で、護岸建設が進められると後戻りはできず、一度失われた貴重な自然や生態系は二度と元に戻らない状況になります。

5. まとめ
 嘉徳海岸及び嘉徳川には多様な生態系が生息し、その結果嘉徳川がバッファーゾーンに指定された趣旨に鑑みると、本件護岸工事は世界自然遺産の目的を無視するものであります。そして、このまま放置され工事が進められれば、二度と元に戻ることはできません。IUCN、世界遺産委員会におかれましては、直ちに工事を中止して,護岸工事を再検討するよう,日本国政府,鹿児島県に勧告されるよう求めます。

 以 上