一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)は、2020年4月16日、これ以上海を汚すな市民会議(共同代表 織田千代、佐藤和良)が呼びかけておられる「福島第一原発事故によるタンク貯蔵汚染水の陸上保管を求める共同声明」に、団体賛同しました。
声明は以下のとおりです。
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福島第一原発事故によるタンク貯蔵汚染水の陸上保管を求める共同声明
未曾有の被害をもたらした、東京電力福島第一原発事故は、未だ、政府の原子力緊急事態宣言も解除されておらず、多くの住民が避難生活を強いられ、放射能汚染による長期的な低線量被曝にさらされています。
福島第一原発事故により発生しているトリチウム等タンク貯蔵汚染水の処理については、経済産業省資源エネルギー庁に汚染水処理対策委員会「トリチウム水タスクフォース」を2013年12月に設置し、「希釈後海洋放出」が最も短期間・低コストで処分できるとの処分方法報告書を2016年6月に公表しました。
これに基づき、同年11月「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」が設置され、「風評被害などの社会的な観点」「被ばく評価に基づく影響」など観点から協議し、2018年8月「広く国民の皆様に処分方法や処分した際の懸念等に関する意見を伺う」「説明・公聴会」を開催しました。公聴会では、「海洋放出されれば、福島県漁業が壊滅的打撃を受ける」という漁業者をはじめとする多数の人たちが海洋放出に反対し、敷地内でのタンク貯蔵を継続する等の陸上保管の意見を出しました。これらの声を切り捨て、敷地不足を理由に陸上保管の継続に難色を示す東京電力の説明のまま、「地元の生活を犠牲にして廃炉を進めるのは論理が破綻している」「風評に大きな影響を与えないと判断される時期までの貯蔵が必要ではないか」「敷地拡大が可能なのではないか」等の委員の意見も無視し、本年2月、「はじめに結論ありき」のごとく、「海洋放出の方がより確実に実施できる」とする報告書が提出されました。
これを受け、本年3月、東京電力は「検討素案」として処分方法を公表し、「トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減(二次処理の実施)、トリチウムの濃度を可能な限り低く」「地下水バイパス及びサブドレンの運用基準1ℓ当り1,500ベクレルを参考に検討」して、福島県沖への海洋放出を年間22兆から100兆ベクレルで最長30年かけ放出する拡散シミュレーションを示しました。
そもそも、タンク貯蔵汚染水は、液体放射性廃棄物です。1月時点で総量860兆ベクレルとされるタンク貯蔵トリチウムは、原子炉内の燃料棒が溶融したために発生した核燃料由来のトリチウムです。事故前の運転で年間2.2兆ベクレル海洋放出していたとされるトリチウムは、核燃料由来のものではなく、核燃料を冷やす一次冷却水の中にできたトリチウムが二次冷却水=温排水から放出されたものです。原子力施設から排出されたトリチウムは、生物濃縮や健康影響の懸念が払拭されていません。
翻って、タンク貯蔵汚染水は、東京電力福島第一原発事故に発生原因があります。液体放射性廃棄物であるタンク貯蔵汚染水は、東京電力が発生者責任の原則のもと、厳重に管理し処理しなければなりません。国・原子力規制委員会は、東京電力福島第一原発について、原子炉等規制法により特定原子力施設に指定している以上、関係諸法令に基づき、液体放射性廃棄物を適切な方法により安全管理を講じさせなければならない義務があり、国民の生命・財産を守るため、高度な注意義務を果たすことが求められています。仮にも液体放射性廃棄物の処理によって健康影響や社会的被害を起こしてはならないのです。
事故後の港湾内外への放射性核種毎の放射能の総放出量や貯蔵タンク内の核種毎の放射能総量などの情報公開もなく、放出に関する環境アセスと総量規制も実施しないままに液体放射性廃棄物の海洋放出することは、許されるものではありません。
タンク貯蔵汚染水=液体放射性廃棄物は、予防原則に立って、タンク保管や固化保管等安全な陸上保管を進めることが現実的であり、国民の生命・財産を守るための懸命な選択です。
コストを優先してタンク貯蔵汚染水=液体放射性廃棄物を海洋放出することは、東日本大震災と原発事故から再生途上にある漁業者に打撃を与え、水産業はじめ地域の社会経済への影響は甚大です。これは、「人間の復興」に逆行する行為で許されるものではありません。
本年3月、安倍首相は「意思決定まで時間をかけるいとまはそれほどなく、できる限り速やかに処分方針を決定したい」と発言し、本年夏までの海洋放出の政府決定に向けて走り出しています。経済産業省が福島県内関係自治体や15市町村議会、関係者のヒアリングを開始していますが、地元福島県の報道機関は「時間切れ許さない」という社説を出し、浪江町議会が海洋放出反対決議を行っています。
4月6日に開催された「関係者の意見を伺う場」で福島県漁連の野崎会長は、「われわれとしては、なんでこのようなことが起きたんだ、ということに立ち返えってしまう。やはり原子力災害だ。われわれ福島県の漁業者は、地元の海を利用して、その海洋に育まれた魚介類を漁獲することを生業としてきた。震災後、地元で土着しながら生活を再建するということを第一に考えている。その観点から海洋放出を反対するものという考えに至らざるを得ない。国の廃炉に向けて進めてきた汚染水の総量を減らすため、地下水バイパス、サブドレンの排出に苦渋の想いで協力してきた。トリチウムを含んだ水については、関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない、というご回答をいただいている。それ抜きに信頼関係は成り立たない。沿岸漁業では、1魚種1検体の抽出検査を行い、試験操業を実施していきている。令和元年度の漁獲高は、震災前の14%。本年2月に出荷制限が解除され、今後、増産に向けて舵を切ろうとしている。9年で若い漁業者の参入が進んだ。今後彼らに将来を約束していくためにも、海洋放出に反対する。また、海洋に県境はない。意図的に海洋にトリチウムを放出することは、福島県の漁業者だけで判断することはできない。全漁業者の意見をきいてもらいたい。」と訴えました。これまで、福島県漁連は「海洋放出には断固反対する」、全漁連も「全国の漁業者・国民に対する裏切り行為であり、極めて遺憾である」と海洋放出を絶対に行わないよう強く求めてきました。
わたくしたちは、一昨年の説明公聴会で圧倒的多数を占めた陸上保管を求める声を、一顧だにしない政府の強硬姿勢を認めるわけにはいきません。国は、全漁業者はじめ、福島県内各自治体、全国各地で公開の公聴会を開き国民の声を聞くべきです。
わたくしたちは、かけがえのない海をこれ以上汚すな!漁業者を孤立させるな!と訴えてまいりました。あらためて、心を寄せるみなさまとともに、政府に対しトリチウム等タンク貯蔵汚染水の海洋放出をやめ、陸上保管による恒久的対策を確立することを求めます。
2020年4月
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●第1次集約:2020年4月18日(土)
●共同記者会見:2020年4月21日(火)福島県庁
●第1次提出:2020年4月23日(木)内閣総理大臣、経済産業大臣、復興大臣、環境大臣
●最終集約:2020年5月16日(土)
呼びかけ:これ以上海を汚すな市民会議
共同代表 織田千代、佐藤和良