ビクトリー    沖縄ジュゴンNHPA訴訟 勝利!
 

 米国弁護士 Sarah Burt (米国・EarthJustice )

 

 2008年1月24日、米連邦裁判所サンフランシスコ地裁は、沖縄ジュゴンv.s. ゲーツ(沖縄ジュゴンNHPA訴訟)の判決を下し、沖縄ジュゴンと沖縄の人々に大勝利をもたらした。判決では、原告側の略式命令申立が認められ、米国国防省(the Department of Defense;DOD)の反対略式命令申立が退けられた。裁判官は、NHPA(米国国家史跡保存法 National Historic Preservation Act)がDODの行為に完全に適用され、DODが法に基づく義務に対し違反していることを認め、DODに対しNHPA訴訟で求められている「配慮する(take into account)」という要件をどのようにして充足しようとしているかについての陳述書を裁判所に提出するよう命じた。裁判官は原告に対しても、DODの陳述書への反論の機会を付与したので、JELFおよび沖縄の原告はなおアセスメント手続きに関してなすべきことがある。


意見


 裁判官の意見は、概括的な背景事実の要約、本件の手続き的経緯の説明、本件提訴の根拠法−国家歴史保存法(NHPA)および行政手続法(the Administrative Procedure Act; APA) の解釈から始まっている。その後、パテル裁判官は法的議論の検討を行い、@DODによる管轄権上の主張について ANHPAの適用可能性について B原告によるNHPA上の請求の理由の有無について 判示した。


1. 裁判所の管轄権について

 裁判官は、原告が米連邦地方裁判所に裁判を提起することはできないとするDODの主張を退けた。

(1)最終連邦行為性(Final Agency Action)ついて

 APAによれば、裁判所は「最終連邦行為」のみの審理が認められている。DODは、本件行為が「最終連邦行為」に当たらないと主張したが、裁判所はこれを退け、「DODは当該軍事施設がジュゴンに及ぼす影響に配慮しないまま、当該施設が具備すべき運営上に必要条件を確定し、また当該施設の設計・構造を定めたロードマップも承認しているが、これらのことは、APAの審査要件との関係ではDODがなすべき配慮をしなかったという不作為について「最終」であると結論した(本件訴訟命令p14)。

(2)原告適格(Standing)について

 DODは原告らには原告適格がないと主張した。裁判官は、すべての原告が「被告のNHPA違反に基づく手続き上の権利侵害と直接の関係を有する具体的利益」を有するとした。「なぜならば、『配慮するtake into account』手続きを遵守することによってジュゴンへの危害が回避・緩和される限りにおいて、原告らの利益の対象そのものを保存・保護しうるからである。さらに、・・・ジュゴンを歴史的・文化的財産として保存しようとする原告らの利益はまさにNHPAによってほごされた射程内の利益に他ならない。」(同p17)。裁判官は、「NHPAは、DODに、しかもDODだけに、(当該施設がジュゴンに及ぼす影響を)配慮し評価する責任を課している。それゆえ、原告らの被った利益侵害は、日本政府によるものではなく、直接DODによるものである。」(同p19)

(3)事件の成熟性

 米連邦裁判所は、事件の成熟性を満たしている請求のみを審理する。裁判官は、「NHPAのように法が特定の結果ではなく、特定の手続きを保証している場合は、連邦機関が手続きに違反すれば、請求は事件の成熟性の要件を満たす」と判事し、原告らはDODだNHPAで要求されている手続きに違反していると主張しているので、「現時点で当該連邦機関の義務異変を主張するのは時期的にも適切である」と認めた(同p21)。

(4)主権免責(Act of State)

 本法理に従い、米連邦裁判所は外国の主権に基づく行為の司法審査は行わない。しかし、裁判官は、本件に関しては、裁判所が日本政府の主権に基づく行為の効力を否定する必要はないので、主権免責の法理は関係がないとした。「当裁判所の審査はDODのNHPA遵守の点だけに限定されている。」(同p24)

(5)必要的当事者(Necessary and Indispensable Party)

 DODは、日本政府が本訴訟の必要的当事者であると主張しようとした。裁判所が主権免責の法理に対する分析で議論しているようにNHPAに基づき「配慮する」ことをDODに命ずることは、直接的にも間接的にも日本政府のいかなる決定にも抵触することなく為し得るので、裁判所の審査は必要的共同訴訟を要求する訴訟手続きによっても禁止されることはない。


2. NHPAの適用可能性について 

 次に、パテル裁判官は、本件にNHPAが適用されるかを検討している。NHPAに基づくDODの「配慮する」義務は、@米国外における連邦機関の行為が A米国の国家遺産登録簿(National Registry)に相当する当該国の登録簿にリストされた遺産に対し B直接的に悪影響を及ぼしうるときに 適用される。裁判所は、DODの(原告請求)却下申し立てを退けた2005年の中間決定において、ジュゴンが同法によって保護された遺産であると判示した。当該決定において、裁判官は、普天間代替施設に係るDODの行為は「連邦機関の行為」であり、普天間代替施設はジュゴンに「直接的に悪影響を及ぼしうる」ことも認定した。結果として、裁判所は本件にNHPAが適用されると結論した。


3.原告によるNHPA上の請求の理由の有無

 裁判所による司法審査が適切でありNHPAが適用されると結論づけた後、パテル裁判官はDODがNHPAに基づきジュゴンに及ぼす影響に「配慮する」義務を遵守したかどうかを検討した。
 パテル裁判官は、NHPA域外適用の際の「配慮する」の意味については、判例法上の先例が無い点を指摘した。裁判官は、国内適用上「配慮する」の意味を定義した連邦行政規定は、域外適用の際の「配慮する」の意味にも妥当するという原告の主張を支持した。そして、「配慮するというプロセスには、最低限 @保護された遺産の特定 A配慮するという行為が歴史的遺産のどのような影響をあたえるかに関連する情報の作成・収集・考慮・更衡量 B悪影響の有無の決定 C必要ならば、悪影響を回避・緩和しうる代替案・修正案の策定と評価 を含む必要がある。」と判示した。(同p32)さらに、「連邦機関は部外者を交えない独自の手続きで、配慮するというプロセスを完結させるのではなく、ホスト国である日本政府やその他適当な民間団体・個人との協働関係の下において配慮するというプロセスを完結させなければならない。」(同p32)

 最後に、パテル裁判官は、DODが当該「配慮する」という要件を遵守したかどうか記録を検討し、遵守していないと結論した。裁判官は、「当該配慮する義務はDODに、しかもDODだけに課せられているのであって、・・・日本政府が日本法に従い環境影響評価を行うという事実は、NHPAによってDODに課せられた配慮する義務を免除するものではない。」(同p37)。さらに、「現在の記録には、普天間代替施設を担当するDOD係官が、ジュゴンや当該施設の影響についての利用可能な情報を考慮・評価したことうかがわせる一片の証拠もない。」と結論した(同p37)。裁判官は強い口調で「当裁判所は、普天間代替施設がジュゴンに与える影響をDODが考慮しようとしなかったのはもちろん、関心さえ示そうとしなかったと言わざるを得ない。原告の主張のとおり、『今さら日本政府の示した環境的関心をDODが自己のものとして援用するのは信義に反する』」と発言した(同p38)。


命令

 パテル裁判官は、命令主文において原告の略式命令申し立てを認容し、被告の反対略式命令申し立てを却下した。

1.「被告らはNHPA402条の定める要件に反しており、この違反は時機を逸した違法な不作為による連邦行為である。」と判示し、

2. 被告らに対しNHPA402条の遵守を命じ、「普天間代替がジュゴンに及ぼす影響を評価するために必要な情報が作成され、かつ被告らが、ジュゴンへの悪影響を回避・緩和するため当該情報を考慮するようになるまで」本件訴訟手続きを停止すると判示し、

3. 被告らに対し90日以内に「@普天間代替施設がジュゴンに与える影響を評価するのに必要な追加的情報は何か A当該情報を入手し得る、適当な個人・団体・政府機関を含む情報源 B日本政府による環境影響評価の性質・範囲について現在知りまたは予想されること。日本政府による環境影響評価がNHPAが被告に要求する義務の履行として十分なものかどうか Cジュゴンに与える影響の緩和のための情報を審査・考慮する権限と責任を有するDODの係官の特定、を文書記録にまとめて」提出すべきことを命じた。原告らには、被告による提出後45日以内に、提出文書への反論の機会が与えられている。


判決の意義

 本決は2つの点で重要な意義を有す。まず、もっとも重要なのは、意見および命令においてDODの普天間代替施設への関与が認められた点である。裁判官は、DODがパートナーである日本政府の行為のかげに隠れることを認めなかった。さらに、DODの計画が「配慮する」との要件に合致するかの判断を留保したことによって、DODの遵守を裁判官がモニターすることを示唆下だけでなく、本手続きにおいて原告がなすべきことを確認した。

 世界中には、その国の歴史的あるいは文化的財産保存法によって保護されているが、アメリカ政府機関の海外での行為によって悪影響を受けている他の種・他の地域があるという点で、NHPAの域外適用がはじめて認められた本件はおもしろいケースといえる。
 アメリカ政府が、国内での行為であろうと国外での行為であろうと、その活動に責任を有するとの判示は法の支配の勝利といえよう。

(翻訳:JELF大阪 池田典子)