1. わが国の環境問題を取り巻く情勢と課題
1) 現在の情勢をどのように見るか
環境問題は行政のあり方と切り離せない。環境問題の分野で特筆すべき情勢の変化は昨年実現した政権交代である。民主党は公共工事のあり方、地球温暖化問題、市民の行政参加の問題など重要な論点についてマニュフェストを作成して政権交代を実現した。高速道路や空港建設建設の見直し、八ツ場ダムに象徴されるダム開発の見直し、グリーンニューディール政策や2020年までに25%削減目標を掲げた発言、普天間県外、国外移設など政権発足当初は多くの前向きな発言と行動があった。しかしながら、発足時から急速に後退が始まり、現時点では民主党政権は政権運営能力の欠如が目立ち始めている。いまや鳩山首相はわが国の歴史上最も無能な首相の一人になりつつある。国民の期待を裏切っているだけ、「無能」の罪は重い。もとより、能力が欠如した首相は彼一人ではないが、歴史的転換点にあってその使命を担い切れていない点で、「無能」の歴史的評価は避けられないだろう。
2) 我々は何をするべきか。
このような政権の混迷をどのように評価するべきか。JELFとして検討するべきは、民主党の混迷ではない。民主党政権の混迷はわが国の環境上の緒論点が依然様々な力関係の上で進んでいることに対する検討である。地球温暖化対策は温暖化ガス排出に対する総量規制を前提とした排出枠取引制度の導入が必須の目標であることは言うまでもない。民主党政権はそれを政策として掲げたはずであった。しかしながら、鉄鋼、電力などのロビイストを核とした経団連の活動が大きな政策後退を招いてきた。普天間基地問題についても、「抑止力」をたてにとった勢力が巻き返しを図った結果、今日の事態となっている。ダム開発や、高速道路開発の状況は同じである。
政権交代に対する我々の評価は、政権交代後の民主党の混迷を嘆くことではなく、民主党政権が持っている守旧的傾向、積極的傾向の分析、従前の勢力の攻勢のあり方、政権交代によって得たもの、得られないでいるもの分析とそれに対する行動戦略を組み立てることである。政権後退によって前進面は確かに存在するし、それに対する国民の期待も大きいことが立証された。我々の戦略はこうしたプラスの要素を考慮した者でなければならない。
3) 混迷する民主党政権下にあってJELFの果たすべき役割
政権交代直後はマニフェストに対する積極的な面が評価されていたが、日に日に後退していく現状から現政権に対する評価に戸惑いが存在する。このような情勢下にあって、弁護士の果たす役割は重要である。
@ 環境法律家連盟は「環境的正義」(environmental justice)を掲げて活動する団体であるが、個々の問題について、人権や正義の視点解決の指針を示していくことが求められている。例えば、八ツ場ダムについて、公共工事撤退のプロセスを示すことが必要である。
A また、現政権に明らかな後退に対しては、明確に対決することも求められる。例えば、普天間基地問題については普天間の無条件撤退及び日米地位協定の改定に踏み込んだ問題提起が必要である。気候変動問題についても温暖化ガス排出総量規制に向けた提起が求められる。
B こような政府に対する若干の期待と、大きな失望が入り交じっている混迷した状況からすれば、環境訴訟の役割はさらに重要性を増している。訴訟は環境問題に対して明確な目的を明らかにする。その行動は一貫している。訴訟は社会や運動関係者にとって、航海する船の灯台や星のようなものとして位置づけられる。
2. 地球温暖化問題
1) 地球温暖化をめぐる情勢
IPCCの第4次報告によって地球温暖化は明確となった。IPCCは温暖化ガス対策と地球環境の将来について4つの予測を行った。それ受けて、産業革命以前の大気状態に比して上昇温度を2度以内に収めることが国際的な目標としてコンセンサスを得られた。
気候変動枠組条約は気候変動問題に対して共通だが差異ある責任をかかげ、排出量が桁違いに大きい先進国は相応に大きな責任があるとした。京都議定書では先進国間に明確な数値目標が示され、わが国は2012年までに90年比6%削減という国際的な責任を法的に負担した。
京都議定書以降、EUを中心に排出ガス削減に向けた努力が行われ前進をみたものの、米国は京都議定書を採択せず、日本は採択したものの根本的解決にはほど遠い政策にとなっている。これらの最大で唯一と言っていい原因は温暖化ガスの最大の排出者である産業界の強い抵抗のためである。日本においては経団連及びそれを代弁する経産省を中心とした強力な反対運動の展開によって対策の前進が阻まれている。政府は産業界にとって当たり障りのない範囲の対策しか講じることができないでいる。
2) 温暖化対策をめぐる運動の状況
WWF、グリンピースなどわが国でもなじみのある環境保護団体は気候変動問題を世界の最も重要な課題として位置づけて活動している。今日、国連や国際条約に基づく諸機関、国際的な環境問題からローカルな環境保護団体まで地球温暖化問題はきわめて大きい。今年秋には生物多様性条約国際会議が実施されるが、そこでも温暖化問題と生物の多様性の課題は会議の最も重要なテーマとなっている。
温暖化問題を巡っては、先進国と途上国、さらにはBRICsのような発展めざましい国との対立が激しさを増している。これらは温暖化ガス対策が必要であるという認識の深まりの反映と言える。国際的潮流で注目すべきは「気候的正義(climate justice)」という考えが強く打ち出されている点である。大気のCO2吸収能力あるいは平衡な大気の状態を公共的利益と見て、その利益の平等な享受を求める考えである。途上国は「大気」を浪費を違法行為としてとらえ、もしくは途上国枠を浪費したことに対する「負債」ととらえ、その賠償を先進国に求めている。
地球温暖化問題に対する運動の局面は多様である。排出量の総量規制に関してはわが国においては気候ネットワークを中心に展開している。気候ネットワークでは情報非公開政策にあって、基礎データを集め我々に貴重なデータを提供する。気候変動問題にあって、気候ネットワークの果たす役割は唯一無二のものである。JELFは気候ネットワークとともに気候変動問題に取り組んでいく必要がある。
3) 気候変動問題についての当面する課題とJELFの役割
政権交代によって鳩山政権は2020年までに90年比25%削減することを国際的に約束した。この目標を実現するためには電力、鉄鋼などCO2の大口排出事業所に対して総量規制を加えることが不可欠である。国際的流れは総量規制を行うとともに排出枠取引を組み合わせることにあり、わが国にもこの制度の導入が不可欠である。これに対しては経団連を中心にした産業界が猛烈な反対運動を展開している。現在、政府は地球温暖化対策基本法の導入を図っているが、実行力が期待できないまでに変更が加えられている。
このような状況下での課題は明確である。わが国では鉄鋼や電力など大口排出者上位44社で総排出量の50%となっている。これらの企業の責任は大きい。にもかかわらず経団連は経済活動が環境問題に優先するとして、その対策を怠っている。その構図は公害の構図そのものであり、過去日本の環境問題の歴史が直面してきた問題と同じである。JELFは排出企業の法的責任を明確にし、わが国に直接排出量を基準にした排出量の総量規制ならびに排出枠取引制度の導入を図るよう政府や社会に働きかけていく。
JELFでは既に地球温暖化問題プロジェクトチームを結成し、排出企業の法的責任を研究するとともに、排出業者に対する法的手段を講じることを準備中である。今期はさらにこのPTの活動を推し進めていく。
3. 日米地位協定
1) 情勢と課題
「世界一危険な基地」である沖縄普天間基地の返還は、1996年にSACO合意によって約束された。SACO合意は普天間基地返還を代替施設の提供を条件とするもので、基地負担が無くなる訳ではなかった。特に代替施設が沖縄県名護市辺野古沿岸部ということでは沖縄県負担の軽減に結びつかないものであり、本来沖縄県にとっても、わが国にとっても受け入れがたい内容であったのである。普天間基地返還、辺野古移設が実現困難であることはSACO合意そのものに根本的な問題が含まれていたのである。
普天間基地は住宅地に隣接して設置されており、米国の基地基準に照らしても許されない施設である。普天間の爆音は80dbを越え、深刻な人権侵害を招いている。基地については司法においては人権侵害を理由にした賠償も認められている。人権侵害の判断があるにもかかわらず日本国政府が必要な対策をとることができない状態で基地は放置されている。日本の主権下にありながら主権が行使できない法的根拠は日米安保条約及び地位協定にあることから、普天間問題の解決には安保条約、地位協定のあり方そのものが問題とされなければならない必然性を持っている。
民主党政権は日米関係の見直し、普天間基地の県外、国外移設実現を約束している。しかしながら、代替施設の設置先を決めることができないために迷走を続けている。そもそも、人権侵害を招く施設は本来日本の主権下では存在を許されない。国防にしろ外交にしろ、人権侵害が解決されつつ行われなければならない政策である。従って、代替施設など無関係に普天間基地は撤去されなければならなかった。基地の負荷が分散するだけでは沖縄県民が納得することは無かった。また、辺野古区域は良好な珊瑚が広がり、ジュゴンも生息する貴重な海である。
ところで、移転先についてこれまで辺野古沿岸部とされていたし、今回改めて沿岸部とする方向が示された。基地移転は人権侵害の場所の移転に過ぎない。普天間で違法であった基地が、辺野古に移れば違法でなくなることはない。
現在、わが国における基地の負荷をにもかかわらず、今日まで実現されていない。原因の一つは、当時約束された「移設先」提供が実現できないことにある。普天間基地は、これまで周辺住民に対して深刻な騒音被害を撒き散らしており、2008年6月には那覇地方裁判所沖縄支部において爆音被害の違法性を認定する判決がくだされている。このような基地が「移設」されれば、その地で被害が拡大するのであるから、かかる基地の「移設先」など存在しえない。この点で、JELFはジュゴン訴訟など、「移設先」として挙げられている辺野古沖の沖縄ジュゴン保護に取り組むことで、辺野古沖への「移設」阻止に貢献していると評価できる。
普天間基地の爆音等の被害を除去し、辺野古沖新基地建設を阻止して沖縄ジュゴン保護を実現させるには、現政権が行っているような米軍の「抑止力」を前提とした国内県内の「移設先」探しではなく、環境面における対等な日米関係を実現する必要がある。その一手段として、日米安保条約及び日米地位協定を改定し、これらに環境条項を設けることが考えられる。
2) 2009年度活動総括
@ 2009年度活動方針
2009年12月のJELF 理事会においては、普天間基地問題、沖縄ジュゴン保護問題の解決には対等な日米関係の実現が不可欠であること、日米安保条約内に環境条項を設ける運動を展開すること等が確認された。
具体的な環境条項としては、@基地に関する環境情報の公開、A環境保護基準やルールの策定、B環境破壊に対する是正プロセルの民主的統制などが検討対象として挙げられた。
A 2009年度活動実績
ア 自由法曹団公害環境委員会と連携し、ドイツや韓国などの各国地位協定の調査研究、日米地位協定における環境条項の可能性について研究を行った。
イ 2009年秋ころにはドイツの米軍基地の現地視察を行った。
ウ 全国の基地訴訟弁護団(基地弁連、空港弁連)とも連携し、安保条約及び地位協定改定の方向性等についての研究を行った。
3) 2010年活動方針
@ 対等な日米関係の実現に向けて、安保条約及び日米地位協定を改定すべきか、どのような形で環境条項を設定すべきか、その法的プロセスはどのようにあるべきか等について、自由法曹団、基地弁連、空港弁連とも協力しながら、引き続き研究活動を行う。
5月末の普天間問題決着は困難な状況に至ってはいるが、遅くない時期に情勢が急展開することもありうるので、できるだけ早い段階(6〜7月ころまでには)で一定の結論を持つようにする。
A 安保条約及び日米地位協定に環境条項を設けるなどの改定案を具体化し、積極的に国会に提案していく。このなかで、普天間基地問題、沖縄ジュゴン問題の解決を求めていく。あるべき対等な日米関係とはどのようなものかを示し、上記問題の解決なくして対等な日米関係はありえないこと、この問題を解決するに足る環境条項の設定を求めていく。
4. 生物の多様性
1) はじめに
生物の多様性は持続社会にとって不可欠な要素であるが,最近の200年あまりで、おびただしい数の野生種の絶滅が進行した。1975年以降の種の絶滅速度は年間4万種との推定もある。
島国でありかつ森林面積の国土の約7割を占めるわが国は、先進国の中では郡を抜いて生物多様性に恵まれ、かつ、それらが絶滅の危機に瀕している。2005年2月には、コンサベーション・インターナショナルが、日本列島全域を生物多様性ホットスポットに特定しており、日本は、いわば世界的にも生物多様性重要地域である。
この我が国の著しい生物多様性の減少にに対し、環境省による国家戦略が策定されている。しかしながら、@同戦略を担保する法的統制の欠如、A生物多様性保護政策に対する市民参加のシステムの欠如、B環境アセスに対する、環境省や市民の統制の機能不全などのために、多くの生態系が乱開発などによって失われていく現状は変わっていない。
一方、2008年5月生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)において、2010年10月、COP10を名古屋で開催することが決定されたことを契機として、「生物多様性」という、わかりにくい用語への社会の関心が高まっている。また、我が国のNGO間で、COP10に向けた連携が深まりつつある。
2) 2009年度の活動総括
@ 2009年度活動方針
上記のような問題意識のもと、泡瀬総会において、@COP10に向けて、国際的にわが国の貧困な多様性政策をアピールし、わが国の問題点の改善に向けて活動を進める、A世界の環境法律家と連携しながら国際政策に関与していく、との方針が確認された。
A 2009年度の活動
ア 問題提起を周知、発信する取り組みが行われた
【中弁連大会プレシンポ】
2009年10月16日中弁連大会プレシンポでは、中弁連地区のJELF会員を中心に、堂本暁子元千葉県知事を招き、「生物多様性保全の実効性確保の手段としての『市民参加』」をテーマに企画を組んだ。一般参加者36名含む211名の参加を得、JELF非会員弁護士からも好意的な感想が寄せられ、問題関心が広がった。
【アジア・環境NGOとのネットワークづくりが進んだ】
2009年は、事務局が、吉江会員が2008年COP9に参加した際に名刺交換をしたNGOとコンタクトをとり続け、世界、とりわけアジア地区の環境事務局のNGOとのネットワークづくりた進んだ。
3) 2010年活動方針
(1) 問題提起を周知、発信する取り組みを引き続き行う。
@ 九弁連大会プレシンポ、中弁連シンポ
弁護士会レベルでは、九州弁護士会連合会が、「生物多様性」をテーマに、大会プレシンポを開催する予定である。また、中部弁護士連合会でも、COP10直前の9月に、「生物多様性と司法統制」をテーマにシンポジウムを開催する予定である。
JELFとして、これらのシンポジウムの成功させるために、尽力する。
(2) 世界とのネットワークづくり
生物多様性条約の目的の一つである「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」を実現するためには、生物多様性の宝庫である東南アジア、南アメリカ、アフリカ地域との連携は不可欠である。
2010年も、引き続き、世界とのネットワークづくりを推進する。
(3) COP10 に向けて
@ カウンターレポートの作成・提出
全国各地の自然破壊事例を収集し,日本政府の問題点をカウンターレポートとして作成し,生物多様性条約事務局に提出する。
A サイドイベントへの参加
5. 環境事件の展開
別紙の通り。
6. 法曹養成
1 はじめに
2006年に新司法試験が始まり,その選択科目として環境法が採用されてから今年で5年が経った。その間,毎年環境法を専門的に学ぶ法科大学院生,さらに環境法を選択科目として選んで新司法試験に合格した弁護士が着実に増えつつある。
しかし,一方で,環境法が新しい分野であるために教師や学習教材が不足し,学習支援体制が不十分であるという問題がある。特に地方の法科大学院では,授業自体開講されていないような大学院があったり,また勉強方法等についての情報不足の問題もあったりすることから,環境法自体には興味がありながら孤立を恐れて選択科目にあえて選ばないというケースが実際に生じている。これらの問題から,8つある司法試験選択科目の中で,環境法の選択者及びそのうちの合格者数は下から2,3番目の位置にあり続けており,司法試験受験者全体の割合から考えれば,環境法を学ぶ学生の数は伸び悩んでいる状況にある。このため,特に地方の学生にも行き渡る形での環境法の教育支援体制の整備と充実が課題となっている。
そこで,JELFでは,環境法に興味をもつ学生が,専門的に環境法を学び,また試験に合格した後も引き続き環境法の問題に専門的に取り組めるようにするための支援を行ってきている。特に最近の取り組みとしては,2008年度より論点表作成会を発足して,学習支援のための論点表作成の取り組み等を行っている。
2 2009年度の活動総括
1) 2009年度活動目標
2009年度は,前年度に作成した環境法の論点集について,環境法の勉強の指針としてより役立つものとするための改訂作業を行うことを目標とした。
2) 2009年度活動実績
2009年度の論点表改訂作業では,7月集会の実行委員となった人が中心になって集まった10人の修習生と,2人の新司法試験を受験した弁護士が参加し,論点表を改訂する作業を行った。また,この参加者で,昨年のJELF総会に合わせて泡瀬干潟と辺野古の現地視察をし,環境事件の現場で起きている問題を実体験した。そして,この視察を基に,参加した修習生たちが泡瀬の住民訴訟について7月集会で報告を行って,他の修習生にも広く泡瀬の問題を伝えている。このように,単に論点表の改訂の取り組みを行ったというだけでなく,それが修習生の環境問題への取り組みと結びつくことで相互に充実した取り組みを行えたことが,2009年度の最大の成果として挙げられる。
3 2010年活動方針
1) 2010年度は,2009年度に改訂した論点表第二版について,引き続き改訂作業を行うことを予定している。そしてそれだけでなく,環境法勉強会を開き,講師となった弁護士から,環境法の実務的な問題の講義や環境法のポイントの解説等を行って,試験を控えた法科大学院卒業生から法科大学院にまだ入ったばかりでこれから環境法を勉強する法科大学院生まで,幅広く環境法の勉強に役立ててもらうこと,そしてそれとともに,この勉強会を通じて,論点表の存在を広く法科大学院生に知ってもらい,有効活用してもらうことを目標にしている。
2) 今年度は,前年度に協力してもらった新62期の弁護士の人達に加え,新たに参加してもらった多数の修習生の協力の下,数度の事前会議で内容を練った上で,3月21日に第1回の勉強会を東京・大阪の同時開催で行った。開催に当たっては,事前会議に参加した修習生や,JELF会員の弁護士による宣伝協力の成果もあって,東京会場で26名,大阪会場で42名という,非常に多数の学生,修習生,それに若手弁護士が参加し,充実した勉強会を行うことができた。勉強会では参加者の参加姿勢もとても熱心であり,質疑応答では環境法の勉強方法に関する質問や,実務に出たときに環境法の知識をどのように生かせるかという点の質問が多く出た。また,勉強会に対する今後の継続の要望も強く,それに応えるために,今度の7月3日には,第2回の勉強会を再び東京・大阪で行う予定である。今後は,これらの東京・大阪の活動を元にしてノウハウを蓄積し,その上でさらに地方の人たちにまで行き渡る形で学習支援を行っていくことが,課題である。
7. 財政
1) 予算、決算の状況
別紙の通り。
2) 予算の問題点
@ 最低限繰り越さなければならない金額を150万円とし、その範囲で活動する。
止む得ない場合には借り入れるか、会員カンパを呼びかける。
A プロジェクトについて
JELFの基本的活動は環境と正義の発行、会費徴収、環境情報の収集整理、修習生対策となっている。これの基本的活動に加えて、特定の問題についてキャンペーンを実施するかについては、人件費との関係でどのようにするか決定する必要がある。
JELFのルーティーンワークの範囲は予算の範囲で行えるが、それを越えた活動を展開する場合には予算との衝突が起こりうる。今期、6月以降、まずルーティーンワークの範囲での活動に限定した上で可能な活動範囲を明確にし、その上で、PTのあり方を検討し直す。なお、今期、意見広告運動についてはJELFの予算を上回る場合にはJELF全体に周知してカンパ活動を行う。
B 大阪事務所の取り扱い
JELF全体の予算が限られているため、大阪事務所については原則特別会計を作り上げていく。
8 アセス法改正問題について (議案書別紙、報告:関根孝道)
日本のアセス制度には実効性がありません。いまだにアワセ(合わせ)メントが後を絶ちません。最近の事例でも泡瀬(あわせ)干潟のアセスでアワセ(泡瀬)メントが行われました。辺野古のアセス事例でも露骨な事業実施のためのアセス「成果」が公表されました。駐車違反のような軽微な法違反に対しても罰則があるのに、環境に著しい影響を及ぼす大規模開発の規制法であるアセス法には、罰則規定がありません。アセスの適用逃れのような脱法的行為も罷り通っています。アセス手続は、事業者ができる範囲でできると思うことをやれば免責される制度であるかのように、誤って理解されています。いわゆるベスト追求基準の名の下で事業者性善説に立った制度設計でなく、環境保全のための規制法としての実効的な仕組みづくりが必要です。「事業者の、事業者による、事業者のためのアセス」から環境保全のための制度への政策転換が求められます。
今、アセス法は全面施行から10年を経て見直し時期を迎え、改正法案が国会に上程されました。改正法案の内容と国会審議を見る限り、抜本的な制度変革は期待できません。確かに、改正法案は現行法の抱える問題点のいくつかを改善しました。主要な改善点は、(1)対象事業につき、補助金事業だけでなく交付金化された事業も含め、具体的事業としては風力発電施設を追加する、(2)スコーピングにつき説明会を導入する、(3)環境大臣の意見提出につき、公有水面埋立にも認める共に、一般的に、方法書段階でも物言いができるようにする、(4)事後調査の実施と公表の法制度化を図る、(5)アセス図書縦覧等の電子手続化を義務づける、(6)戦略的アセスメントを導入する、等々です。これらは現行法の問題点のいくつかを解決するもので評価できます。もっとも、戦略的アセスメントの導入といっても、その実質は事業アセスメントの実施時期を多少早めただけで、本来的な意味での戦略アセスメントの採用とはいえません。上記以外は現行法通りとされるのでしょう。
実効的なアセス制度確立のためには以下の諸制度が欠かせません。(1)第三者機関(環境保全審査会)を設置してアセス手続に関与させると共に、評価項目・審査基準等を法定して評価基準を法上明記する。(2)アセスの実施時期を早めて代替案の有意義な検討を可能にし、対象事業の範囲も広く「環境に著しい影響を与える事業」に拡大する。(3)争訟手続を導入し、アセス手続自体の違法性を争う不服申立制度を設け、環境NGOを含む市民らが法的救済を求めうる仕組みをつくる。(4)環境保全措置に係る代替案につき、回避・縮小・代償措置の優先順位で検討することを義務づけると同時に、事業自体に関する複数案も検討させる。
現政権は、開発優先から環境保全に政策転換し、アセス法改正を重要課題としています。自然破壊型の20世紀的なムダな公共事業の見直しツールとしてもアセス制度に期待がかけられています。アセス法の抜本的改正は将来に持ち越されたので、改正アセス法の付帯決議等において、次回アセス法の見直し時期を現行法の10年よりも短期にさせたり、アセス訴訟制度の創設などを検討課題とすることを明記させる必要があります。当面の課題としては、アセス制度の対象事業の指定が一部政令に委ねられているので、この政令改正により対象事業の範囲を拡大するなど、アセス法の重要事項を定めた政令改正などに向けた取り組みが求められます。
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