1. 連盟の設立趣旨について
総会の冒頭にJELFの設立趣旨が改めて確認された。
JELFは「環境的正義」の理念のもと,法によって環境保護運動を進める法律実務家によって構成される環境NGOである。
JELFは環境問題は個人の尊厳を維持するために不可欠な人の環境が侵害される時に生じる社会問題であると考えている。全ての環境問題の解決基準は個人の尊厳を基本にした憲法の理念でなければならない。それは,同世代間あるいは未来世代間との公平、社会の持続性、自然界との共生の課題においても全て個人の尊厳とその実現の課題として理解されるのである。
弁護士の任務は言うまでもなく法の支配の実現にあるが,環境問題解決の基準を個人の尊厳であると理解するとき,我々法律実務家は環境保護運動に取り組む必然性を持っているし、環境保護運動の最前線に立つ必然性を持っているといえる。
2. 訴訟支援について
1) JELFの情報センターとしての機能を徹底させ,環境訴訟の相互交流,相互支援の活動を活発化させる。全国的にみて重要とされる事件については、総会、理事会などにあわせた拡大弁護団会議あるいは当該事件をテーマにしたシンポジウム、集会などを実施して全国的な交流を進めて裁判の前進を勝ち取る必要がある。アスベスト事件,景観事件,河川やダム問題などテーマごとの訴訟交流を進める活動も行う。
2) いやがらせ訴訟について
総会では沖縄県東村高江ヘリパット基地建設反対運動に対して,あえて活動家を除外して一般市民を相手とする妨害禁止の仮処分事件の報告を受けて,嫌がらせ訴訟が論議された。鹿児島県種子島をめぐる訴訟においても開発側が反対漁民に対して1億円の損害賠償請求訴訟が提訴されるなど,散発的ながら嫌がらせ訴訟がみられる。これらの事件について,総括するために機関誌において特集を組むと共に,支援のための情報収集を行うことが決められた。
3) 「自然の権利」基金
「自然の権利」基金は訴訟支援のために市民が寄付などを行うための団体である。現在会員数は1200名を越え、年間400万円前後、自然保護関連訴訟のために資金援助を行っている。事実上、JELFが環境訴訟の情報センターとして訴訟を支援する、弁護団を呼びかけていく一方で、「自然の権利」基金がその資金を提供していくやりかがた事少しずつではあるが定着しつつある。例えば、泡瀬干潟訴訟は沖縄県の運動と「自然の権利」基金が相互に資金を提供して100万円以上の裁判費用を準備したし、基金からは毎年30万円から50万円の資金提供を可能とする体制ができている。今後、「自然の権利」基金との連携を強化し、環境訴訟を支援する体制を充実させていく。
3. 自然保護訴訟,行政訴訟について
1) 環境訴訟をめぐる動き
わが国の環境政策は市民参加の過程に乏しく,司法的担保もきわめて不十分である。しかしながら,市民が直接国,自治体,企業を相手に対決することのできる訴訟の役割は大きい。また,環境事件の取組によって,環境訴訟の有効性をアピールでき,制度の変革にもつながっていく。
2) 行政事件訴訟など,行政を相手にする訴訟をめぐる動き
@ 勝訴事例
特に新行政事件訴訟法施行以降、小田急事件最高裁判決に見られるように原告適格拡大の動きができている。また,最高裁は土地区画整理事業の事業計画の決定について処分性を認めるなど,徐々に出はあるが行政訴訟緩和の動きも存在する。2008年3月3日には,広島地裁で鞆の浦公有水面埋立免許仮の差止訴訟で,景観的利益を根拠に原告適格が認められるという決定が出された。2008年6月27日に佐賀地裁で諫早湾干拓事業について国に対して開門を命ずる判決が出された。2008年11月19日には那覇地裁で泡瀬干潟埋立費用支出の差止を認める判決が出されている。
A 敗訴事例
しかし,一方で,2009年5月11日には東京地裁が八ツ場ダム訴訟にて原告の訴えを退ける判決を出している。利水,治水の必要性が欠如するダム開発に対して,裁判所はそれを認めるだけの証拠がないとしたのである。行政裁量の壁は依然厚いと言え,行政訴訟に限らず,国賠請求,差止請求などについても裁量統制をいかにはかるかが最大の問題であると言える。もちろん,処分性や原告適格についても緩和の流れが完全に定着したとはいいがたい。
B 行政事件訴訟法改正の動き
行政事件訴訟法改正5年後には再度検討することになっており,すでに検討作業が始まっている。団体訴権の確立,原告適格,処分性の拡大などが重要課題となっている。行政裁量についても法律改正の課題とされるべきではないかと考えられる。
3) JELFの課題
@ 日弁連その他の団体など法律家団体に対して,行政事件訴訟法改正問題を取り上げるよう働きかけていく。
A 今年度は理事会,総会などのおりに行政事件セミナーなどを実施する。
B 研究者団体との共同関係を進めて、これらの問題について住民、市民の立場からの進展を目指していく。
4. 公害・有害廃棄物汚染
1) 公害訴訟
大気汚染分野では川崎、西淀川、尼崎、名古屋南部といくつかの事件が訴訟の勝利をふまえて、まちづくりなど市民の側からの都市設計の課題に取り組んでいる。基地裁判関係については新横田基地訴訟、新嘉手納爆音訴訟、普天爆音訴訟などが提訴されている。これらの問題点は被害を認定しながら差し止めに至らない現状や、米国を被告とした場合の主権免責の課題が存在している。JELFとしては、公害弁連と共同関係を進めて公害事件に関する情報センターとしての機能を強化すると共に、国際的な視野からの公害訴訟の交流を進めていく。
2) 土壌汚染問題
現在,土壌汚染問題が各地で発生している。とりわけ,廃棄物最終処分場の跡地に対する取り扱いが問題となっている。土壌汚染は長い年月をかけて拡散していくという特徴を持っており,加害者の特定や責任追及が難しい。土壌汚染対策法には所有者に対する責任も明記されているが,これはむしろ,被害者が責任を負担する結果になることもある。また,わが国の土壌汚染対策は,表面を覆うことによって対策とするというもので,恒久的なものではない土壌汚染問題についてもJELFとしても情報を収集し,情報交換を進めていく。
特に,総会では韓国の廃棄物処理手続きが議論になり,その先進的な手続き,訴訟の実情を調査することが決められた。
3) 有害化学物質汚染
化学物質の汚染が地球規模で広がり、次世代や自然環境に対し、目に見える深刻な影響を与えつつある。多様で広範囲に及ぶ化学物質については全ての化学物質に対して科学知識があるわけではない。EUでは予防原則に基づいた政策が進められつつある。日JELFとしても化学物質対策を進めるNGOと連携して行動する必要がある。化学物質過敏症訴訟の交流,特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)の活用についても議論を進めていく。
5. 都市問題
景観法施行にともない、都市景観の保護についても新たな政策が求められようとしている。また、持続社会としての都市をいかに考えるかが重要な課題となっている。都市を商業、産業の中心部として機能するわけであるが、都市が市民の居住空間、生活空間として機能するための総合的政策や、コミュニティとしてのアイデンティティを確保できる政策が求められている。こうした市民を中心とした都市政策を実現する上で必要な都市政策決定過程に対する市民参加の課題はJELFがとりくべき課題として今後進めていく。
6. 環境コンプライアンス
1) 環境問題に対する注目度の上昇に伴い、企業コンプライアンスの課題として考えられなけばならないとされるようになりつつある。環境コンプライアンスの欠如が市民社会にとっても、企業自身にとっても大きな損失をもたらすことはこれまでの公害事件や廃棄物事件が物語っている。JELFにおいても、今年度は環境コンプライアンスの確率に向けて企業に対する啓蒙活動を実践していく。
2) 環境コンプライアンスは企業の自主的努力のみによって確立することはない。何らかの外部的統制が不可欠である。それは行政による統制もあるが、市民によって当精査されていくことが必要である。将来的政策課題として市民による環境的統制制度、例えば民事罰金制度や、市民による是正請求制度、企業情報の公開制度が確立していく必要がある。さらに、株主代表訴訟の活用も追及されるべきである。
3) 多くの企業がアジア地域を中心に企業進出を果たしている。とりわけ中国への進出は著しい。中国は現在深刻な環境問題に直面しており、今後統制が強化されると考えられる。企業にとっても中国を始としたアジア諸国進出に際しては環境コンプライアンスが確立することが不可欠である。JELFでこうした海外進出企業に対する啓蒙活動も推進していく。
4) JELFの課題
@ フェロシルトをめぐる株主代表訴訟を積極的に支援していく。
A 日本の多国籍企業に対する企業,日本のODA監視活動を強めていく。
7. 生物の多様性保全
1) 2010年には生物多様性条約締結国会議(COP10)が実施される予定である。生物の多様性は持続社会にとって不可欠な要素であるが,わが国の多様性の現象は著しい。環境省による国家戦略が策定されているが,多くの生態系が乱開発などによって失われていく現状からすれば,不十分と言わざる得ない。その問題点は次の点に集約される。
@ 生物多様性国家戦略についての法的統制による裏付けの欠如
A 生物多様性保護政策に対する市民参加,市民参加に対する司法的担保の欠如
B 環境アセスメントが事業者アセスとなっており,環境省や市民の統制が機能していないこと。
2) COP10に向けて
JELFではこうしたわが国の問題点を国際的にもあきらかにする取組を名古屋での会議を機会にわが国の貧困な多様性政策をアピールし改善に向けて活動を進める。
そのために,JELFでは全国各地の自然破壊事例を収集し,日本政府の問題点をカウンターレポートとして作成し,生物多様性条約事務局に提出する。
3) 生物の多様性問題は世界,とりわけ第三世界の持続社会作りと不可避に結びついている。アジア,アフリカ地域では遺伝資源の公平な分配,ローカルなコミュニティの維持,保護活動が進められおり,JELFとしても世界の環境法律家と連携しながら国際政策に関与していく。
8. 地球温暖化問題
1) 地球温暖化(気候変動)を巡る情勢
温室効果ガスが大量に大気に排出されることにより、地球全体が温暖化し、気候システムは大きく変動している。この地球温暖化に伴い、局地的な異常気象が頻発し、氷河が溶け、海水面が上昇し、人間の生活環境や生物の生育環境に悪影響を及ぼしている。
IPCC第4次評価報告書は、このような地球温暖化の原因が人為的活動であることはほぼ確実であるとし、2010年までに気温は2〜4.5℃上昇すると予測している。
こうした気候変動がもたらす負の効果は計り知れない。今日、地球温暖化問題は人類上げて取り組まなければならない重要課題となっている。
2) 地球温暖化問題に対する国際的取組みと日本の責務
地球温暖化防止対策は、気候変動枠組条約(1992年5月採択、1994年3月21日発行)と京都議定書(1997年12月採択、2005年2月16日発行)で設定された枠組みのもとで進められている。京都議定書ではこれまで大量の温室効果ガスを排出してきた先進国に対して2008〜2012年の間の排出量につき具体的な数値目標(先進国全体で5%)を定めた削減義務を負わせ、日本国は1990年比で6%削減する義務を負うこととなった。ところが、2005年の温室効果ガス排出量は1990年比で8.1%増加しており、このままでは、削減義務を達成することは到底不可能な状況となっている。
3) さらに,2009年12月にはコペンハーゲンにてCOP15が開催され,京都議定書に代わる新たな枠組み作られようとしている。EUは温暖化政策の世界のトップランナーとして温暖化ガス抑制政策,エネルギー転換政策を進めている。米国においてもオバマ政権に変わり,新しい政策が始まろうとしている。一方わが国においては温暖化ガス排出規制に反対し,自主努力による現状維持を掲げた政策が提案されようとしている。先進国であるわが国がこのような現状維持策をとることは許されない。特に,CO2排出量中産業部門、エネルギー転換部門、運輸部門など企業系の排出量で全体の6割以上を占めることを考えると,責任の大きな企業に対して排出者としての責任を求める必要がある。
4) JELF課題
JELFとしては今期,気候変動問題に積極的取組,企業の排出者としての責任を追及していく。
9. 国際環境問題
1) 経済のグローバリゼーションの進展は多国籍企業による投資の自由を保障するものであることが明らかになっている。自由経済の名のもとの多国籍企業の活動の自由は国際的な貧富の格差を固定し、拡大するものである。環境問題は持続的社会の中で解決されなければならないものであるが、経済のグローバリゼーションは持続的経済を発展させようと言うローカルな努力を阻害するであろうし、途上国による自律した経済を作り上げる努力阻害することになる。ようと言う国際的な視点で見るならば貧困が途上国の環境を悪化させ、地球規模の環境的危機を引き起こしていることを考えれば、現在進行している経済のグローバリゼーションが地球環境に対し悪影響をもたらす危険性を持っていると言える。
こうしたグローバリゼーションの流れに対し、個人の尊厳を価値観の中心に据えた国際的な市民運動が展開している。世界のあらゆる個人やコミュニティーが持続的な社会で平和で自由に生活できるよう求める運動が進められている。こうした社会は環境問題だけではなく、ジェンダーや貧困、少年問題などあらゆる国際的な人権活動の連携によって実現されるべきである。
2) 我が国では国際的事件として、コトパンジャンダム事件、沖縄ジュゴン訴訟がある。コトパンジャンダム事件は日本のODAによってインドネシアに建設されたダムによって多くの住民が劣悪な環境下に移住させられた事件でODAの貸し手側である日本国政府を相手に国賠請を提訴している。これは国際援助がそこに住む具体的個人の幸福のために行われるべきであるという原則を示す事件として重要である。また、沖縄県辺野古沖に建設予定の米軍基地に反対して、JELFは米国環境法律事務所、アースジャスティスと共同して行政訴訟を展開している。日米の弁護士が共同して環境を守る活動をする点で新しい展開を含んでいる。
3) 以上の認識の下にJELFでは国際的事件を支援するとともに、世界各地の法律家と相互に情報・意見を交換して連携をはかっていく。特にアジア・太平洋地域の環境派弁護士と連携をはかっていく。
10. 法曹養成
1) ロースクール制度が始まり,JELFの法曹養成活動は大きく変化した。修習生,法科大学院生,学生の各層を個別に対応するのではなく,一つの企画で全ての層を対象にする政策を実施する。
@ 司法試験の合格発表,司法研修所への入所にあわせて修習生,ロースクール生のための企画を行い,世代意識を作っていく。
A 法科大学院の教員を通じてJELFを積極的に宣伝する。
B 修習生,ロースクール生向けメールマガジン「エコタマ」の発効を行う。
2) 環境法の司法試験科目化の課題
@ 環境法は新司法試験の選択科目となった。このことは環境法の発展にとって重要な一意味を持つが、一方で論点主義に陥ることで、環境法教育が本来目指すべき内容が湯気米良れる危険がある。これらの司法試験化した成果を維持しつつ、環境法律家への動機付けを与える教育の実現が求められる。JELFは司法試験化という新たな局面を前提に環境法教育のあり方を提案する。
A 司法試験受験対策について
一人でも多くの学生が司法試験で環境法を選択しやすくするため,JELFにおいても受験対策を進めていく。
11. 連盟大阪事務所
大阪事務所の役割を見直し,あらたな事業を展開する。
12 2008年決算,2009年予算など
別紙
13. 2009年度人事
1)
代表理事:村田正人
副代表:池田直樹、市川守弘
理 事:広田次男、中島嘉尚、
西島和弁,只野靖、菅野庄一
野呂汎、原田彰好、籠橋隆明、樽井直樹、
藤原猛爾、赤津加奈美、関根孝道,和田重太
谷脇和仁,国宗直子、後藤富和,西田隆二、加藤裕
監事:鷲見和人
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