2020年3月3日、那覇地方裁判所は、石垣島の白保リゾートホテルの建設計画に関し、現在の計画では汚水排水計画に問題があるとしてこのままでは建設ができないとして、訴えの利益なしの「却下」判決を出しました。
原告、弁護団は、住民側の実質勝訴判決として、那覇市でプレスリリースを発表し、記者会見を行いました。
その際に発表されプレスリリースと新聞記事、判決文など、弁護団より提供いただきましたので掲載します。
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2020 年 3 月 3 日
白保リゾートホテル建築工事差止請求訴訟原告団
白保リゾートホテル訴訟を支援する会
判決を受けて
本日(2020年3月3日)、 那覇地方裁判所において、白保リゾートホテル建築工事差止請求事件(平成30年(ワ)第752号 原告 新里昌央 外6名) の判決が言い渡されました。つきましては、原告が判決をどのように受け止めているのかと、結審後に報じられた被告(株式会社日建ハウジング)の主張の 重大な問題点を以下にまとめました。
<訴訟の概要>
本訴訟は、株式会社日建ハウジングによるリゾートホテル建築計画「(仮称) 石垣島白保ホテルプロジェクト」が 2018年3月に沖縄県から開発許可を受けたことから、白保在住の漁業者と白保海域でシュノーケルツアーを営む事業者からなる原告7名が、当該ホテルが建設されることで、貴重なサンゴ礁生態系が残る白保海域で営んできた営業権や漁業権が侵害されるとして、2018年9月にリゾートホテル建設工事の中止を求めて提訴したものです。
1. 判決要旨(判決文書は別紙)
本件訴えを却下する。
<理由の概要>
被告である株式会社日建ハウジングは、石垣市白保のホテル建設計画について沖縄県から開発許可を受けている。開発許可に際しては、汚水排水計画について八重山保健所と事前協議の上、ホテル建築物についての建築確認を受けることが予定されていた。しかし、汚水排水計画について八重山保健所から問題点を指摘されており、その問題点を解消できる変更計画の見通しは、現状、立っておらず、建築確認が下りる具体的な見込みもない。 よって、ホテルが建築される具体的なおそれはなく、原告らがその差し止めを求める訴えの利益はない。
2. 原告の受け止め
原告団としては、今回の判決は実質勝訴だと考えています。原告は地域の自治組織である白保公民館が総会決議で「不同意」とした建設計画の中止を求めて提訴に立ち上がりました。その結果、裁判によって計画が実施できないことが明らかになり、実質的に工事を止めることができています。今後、計画が変更されて開発許可手続きが進められるとしても、住民の生活環境や沖縄の観光財産であるサンゴ礁生態系を脅かす計画に対しては、これからも問題点を広く世の中に知らしめつつ、中止や撤回を強く求めていきます。また、実施できない計画に対して開発許可が出されたことについては、見直されるべき重要な問題だと考えています。
<これまでを振り返って>
① 被告の現行計画は、そのままでは法的に実施できないことが明らかになり、事実上、いまだに工事が着工できない状況にある。
② 1月28日の第2回口頭弁論において、被告が沖縄県から開発許可を受けた現行計画は、そのままでは県の排水規制基準を満たしていないため実施できないことを被告が認めた。はじめから実施できない計画に開発許可が与えられており、当該開発許可手続きは違法ではないとしても不当だったことが裁判によって明らかになった。
被告の現行計画は、公共下水道のない計画地で浄化槽排水を地下浸透させる内容だが、沖縄県では、浄化槽放流水の地下浸透処理は原則禁止。「地下水の汚染につながり、生活環境の保全及び公衆衛生上支障を生じる恐れがある」 からという理由で制限されている。(沖縄県浄化槽取扱要綱 第5条)現行計画は、例外的に認められるために必要な土地条件を満たしていない。
③ 却下の理由である「訴えの利益がない」とは、被告の開発計画が法的に実施できないことに起因しており、原告が指摘してきた計画の問題点に関する主 張が否定されたわけではない。結果的に、被告の計画が周辺の生活環境や自然環境に悪影響を与えるという原告の主張が認められたに等しい。
④ 白保地域の住民は、石垣市の条例に基づいて、自治会である白保公民館の臨 時総会で計画に対して「不同意」の決議をおこなっている。地域住民による意思表示は、県民投票の結果と同様に尊重されるべきである。
3.被告の主張の問題点
① 被告は、裁判後も「現行計画でも環境に影響はない」と公言しており、現行計画がなぜ実施できないのかを全く理解していない。沖縄県の観光財産である自然環境に対して、その魅力を基礎に利益を得ている観光事業者のこのような発言は、多くの県民にとって脅威といえる。
第2回口頭弁論の翌日の一部報道(2020年1月29日付八重山日報)によると、 被告は「現行計画でも環境に影響はない」と公言している。被告の現行計画が実施できないのは、現行計画が原則禁止となっている浄化槽放流水の地下浸透処理を採用しているからで、禁止の理由は沖縄県浄化槽取扱要綱第5条で「地下水の汚染につながり、生活環境の保全及び公衆衛生上支障を生じる恐れがある」からとされている。そして、現行計画は例外的に地下浸透が許されるための土地条件を満たすことができていないから実施できないのだ。にもかかわらず、「現行計画でも環境に影響はない」と公言する企業姿勢は到底理解できない。 環境に対しても公衆衛生上も問題があり、法的に実施できないことが明らかになっている計画の問題点をなぜ理解できないか。豊かな自然環境を観光財産としている沖縄県で、いまや主要産業となっている観光業に携わる事業者として、非常に問題だと思われる。
② 被告は、計画が開発許可にふさわしくなかったことを自ら認めている。
同じく2020年1月29日付八重山日報では、「被告はホテルの排水計画が原因で建築確認が申請できなかったことについて『当初から織り込み済みだった』と強調」と記載されている。建築確認申請は、開発許可の条件(*資料 1)になっている。つまり、被告は開発許可を申請した計画ではその後の法的手続きができないことを当初から承知していたことになる。しかし、都市計画法上、許可の基準に照らして相当であるから開発許可が出されているので、許可は違法とはいえないが、はじめから実施できないことが明らかな計画に開発許可が出されている事実は、決して正当だとはいえず、見直されるべきであると考える。 そして、被告は自らの主張で開発許可の不当性を裏付けているのである。
以上
別紙添付 資料 1 開発許可の通知
((株)石垣島白保ホテル&リゾーツは、 (株)日建ハウジングの子会社で、平成30年10月に親会社に吸収合併された。)
<この件に関してのお問合せ>
白保リゾートホテル訴訟を支援する会 事務局長 柳田裕行 080-8135-1236
https://shiraho2018.wixsite.com/shienkai
<この問題に対する白保地域での住民のこれまで取り組みのまとめ>
白保リゾートホテル問題連絡協議会
https://shirahohotelmondai.wixsite.com/shirahohotelmondai
*白保リゾートホテル問題で検索できます。
訴訟の内容につきましては、次の原告ら訴訟代理人にお問い合わせください。
原告ら訴訟代理人
弁護士 喜多 自然(きたじねん)沖縄合同法律事務所/那覇市松尾 2-17-34 電話 098-917-1088
弁護士 赤嶺 朝子(あかみね あさこ)同上